フリーランスは知っておきたい報酬の技術格差・地域間格差

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フリーランスの需要増加と志望者数の増加

近年、会社に属さないフリーランスという働き方が日本でも浸透し始めています。
2017年には労働人口の17%に当たる約1,122万人がフリーランスとして働いているようです(1)
会社の時間や人間関係に煩わされず、自由に働けるイメージが憧れを生んでいるのでしょう。

本当に自由なのか、という議論は別の機会にして、今回はフリーランスの報酬金額について考えていきたいと思います。

フリーランス人口が増えるにしたがって、Webディレクターの私の周りでもこんな声も聞くようになりました。

「もっと高い報酬を得たいから、スキルアップしないと」
「地元の報酬額が低すぎて食べていけないよ」

なぜこうした声が生まれるのでしょうか。そしてこの問題に対してフリーランスはどうすればよいのでしょうか。
今回はWebディレクターとしての視点から、技術力の格差と地域間の格差についてお話していきます。

技術力による報酬の格差

スーパースターとふつうの人

まずは技術力について考えていきましょう。
私もWebディレクターという仕事柄、
「もう少ししっかりとした知識を身に着けるために、ITスクールに通い始めたんですよ」
というフリーランスの方々の声をよく耳にするようになりました。

どんな技術が明日陳腐化するかわからないこのご時世、勉強することに越したことはないと思います。
一方で、いつもフリーランスの皆様にお願いする立場である私が、フリーランスの方から
「どれだけ技術力を高めれば報酬金額を上げてもらますか?」
と訊かれたら、答えに窮してしまうでしょう。

例えばWebサイト制作であれば、HTML・CSSなどはある程度覚えてほしいところですが、どれだけHTMLのことを知っていればよいか、経験を積めばよいのか明確な指標があるわけではありません。
しかし「この人は他の方と全く別次元の人だ!」と感じるフリーランスさんがいらっしゃるのも事実です。

こうした中途半端な気持ちは、何も私だけのものではないようです。
IT技術の進歩による「テクノロジー失業」を取り扱った『機械との競争』では、この10年間で高度にスキルを持った人(スーパースター)とスキルの低い人への需要が横ばいで推移している中で、中間層(ふつうの人)であった人たちの需要が減退していることに言及しています(2)

その結果、中間層の人たちの報酬は、スキルの低い人たちの水準にまで低下していきます。
よっぽど際立ったスキルを身に着けていない限り、中級レベルの技術者も、スキルの低い技術者と同じ扱いをされてしまいます。

スキルではなく時間を買われるフリーランス

ではなぜ中間層に対するニーズが少ないのでしょうか。
これはフリーランスにお願いするガイドラインやマニュアルの整備が整い始め、高いスキルが求められなくなったことが関係しているでしょう。

例えば、外部の方にWebページ制作のお手伝いをお願いする場合、私はできるだけコーディングがしやすいようガイドラインを作成します。
このガイドラインに沿って作成していけば、そこまで高いスキルがなくともページ作成ができるようにしています

こうして、ガイドラインやマニュアルにまで落とし込むことができるのであれば、高いスキルは必要なく、求められるのは作業時間になります。
そのため、フリーランスの方々への報酬も、アルバイトの賃金などと変わりない報酬金額に設定されることになります

フリーランスになったため、
「自分たちはスキルを販売している」
という感覚になりますが、実際には作業をする時間を提供しているというのが実情なのではないでしょうか。

地域間格差

次に東京と地方の報酬格差を考えていきます。

東京では1ページ10,000円かかるWebページの作成を、他の地方では5,000円でお願いされるというようなこともあります。
なぜこのような地域間格差が生まれるのでしょうか。これも結局は上述したフリーランスが時間給で雇われていることと関係します。

最低賃金を比較してみると、東京が958円である一方で、佐賀・長崎は737円であり、実に200円近い開きがあります。
なぜこのような最低賃金の差が生まれるかというと、それぞれの地方の物価などが影響しています。

先ほど報酬を時間給で考えているという話がありましたが、「この作業は5時間程度かかる仕事だけど、どのくらいの報酬を設定したほうがよいだろう」ということを考えていくと、物価・最低賃金の安い地方の報酬は安く設定されがちです。
こうしたことから、都心と地方の報酬格差が生み出されているのではないでしょうか。

フリーランスはどうすればよいのか?

今回はフリーランスの報酬の技術力による格差と東京と地方の格差を考えてきました。
最後に、フリーランスとして独立した場合、どのようなことに注意すべきかまとめていきましょう。

短期的には扱える業務を増やす

まずはフリーランスとして生計を立てるために、十分な仕事量を確保しなければなりません。
そのため、短期的には扱える仕事の範囲を拡張していくことが大切です。
デザイナーであれば、フォトショップやイラストレーターだけでなく、Webデザインをする上でHTML・CSSなども覚えておいたほうがよいでしょう。

長期的には組織としてやっていくか、専門スキルを磨いていく

短期的には幅広い仕事を扱えたほうがよいのですが、これはあくまで時間給の報酬が設定されるスキルが低い場合に有効です。
そのまま扱える仕事を増やすためにスキルの取得だけを求めていると、いつまでたっても自身の収入を上げることはできません。

高い収入を得られるようになるには、他のフリーランスには負けないスキルを身に着け、「スーパースター」を目指すていくか、フリーランスとして個人で働いていくのではなく、事務所や会社を構え、組織で働くことを視野にいれていくほうがよいでしょう。

  • (1)ランサーズ「フリーランス実態調査2017年版」
  • (2) エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー『機械との競争』( 村井章子訳)日経BP社、2013年、99頁。