やりがい搾取とは何か?

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「逃げ恥」で一気に有名になった「やりがい搾取」

森山みくりの発言から

新垣結衣・星野源主演の人気ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の中で出てきた「やりがい搾取」という言葉が有名になりました。
なんでも、ヒロイン・森山みくりが「友だちだから」「勉強になるから」と商店街のボランティアを任されそうになった時に「やりがい搾取」という発言がでたようです。

誰にでも覚えがある「やりがい搾取」

「みんなのため」「あなたのため」などの「やりがい」を盾にして無理を言われてきた人は多いのではないでしょうか。
ブラック企業がはびこる最近、会社から「君の勉強になるから」と休日出勤を促されたりする方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「やりがい搾取」が蔓延する今日で、森山みくりの毅然とした振る舞いが共感を呼んだそうです。

「やりがい搾取」とは何だろう?

本田由紀『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』で認知される

では「やりがい搾取」とは何なのでしょう?
この言葉は教育学者・本田由紀の著書『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』の中で使用されたのが始まりとされています。
言葉の意味は同書の『〈やりがい〉の搾取 ―拡大する新たな「働きすぎ」』の節で詳しく説明がされています。

「自己実現型」という新しいワーカーホリック

本田先生は最近蔓延している「自己実現型ワーカーホリック」「やりがいの搾取」であると指摘します。
「自己実現型ワーカーホリック」とは社会学者・阿部真大が作り出した言葉です。
従来の働きすぎが「上司が帰らないから自分も帰りにくい」という「集団圧力系ワーカーホリック」であるならば、「自己実現型ワーカーホリック」は一見自由に趣味を楽しんでいるように見えながら、働きすぎてしまうという状態です。

歩合制のバイク便ライダーの例

阿部先生が例としているのは歩合制のバイク便ライダーです。
バイクで配達するというのは、バイクが好きな人にはたまらないものですし、歩合制なのでがんばればがんばるほど収入も増えていきます。
高収入者を目標としながら、休みなく仕事にのめりこんでいく様子を阿部先生は「自己実現型ワーカーホリック」と呼びましたが、本田先生は『「〈やりがい〉の搾取」と呼ぶべきであろう』と言っています。
ただし今回は一般的になった「やりがい搾取」という言葉で統一していきます。

やりがい搾取の要素

本田先生はやりがい搾取の要素として、①趣味性、②ゲーム性、③奉仕性、④サークル性・カルト性を挙げています。

やりがい搾取の要素
  1. 趣味性
  2. ゲーム性
  3. 奉仕性
  4. サークル性・カルト性

簡単にその中身を見ていきましょう。

趣味性

趣味性はわかりやすい要素ですね。
先ほどのバイク便のように、好きなものだから働きすぎてしまうというものです。

ゲーム性

ゲーム性については「○○にしたらランクアップ!」のような制度を思い出せばよいでしょう。
ゲームのようにランクがあったり、裁量が多く実力を発揮しやすい職場で働きすぎてしまう現象です。

奉仕性

これは冒頭の「逃げ恥」にもでてきた「みんなのために」という側面ですね。
つまり、周りの役に立つから頑張りすぎてしまう現象で、サービス業で多くみられるものです。

サークル性・カルト性

サークル性・カルト性というのは、独自文化の中で働きすぎてしまうというもので、例えば朝礼で社訓を絶叫するような会社をイメージすれば大過ないでしょう。

「ビジョナリー・カンパニー」と「やりがい搾取」は紙一重

ビジョナリー・カンパニーも同じ要素を持っている

以上のように、本田先生が考える「やりがい搾取」の要素を見てきましたが、「うわぁ……こういう会社があったらいやだな」と思う人もいれば、「あれ?これはこれで楽しいのでは?」と思う人もいるはずです。
経営学の名著『ビジョナリー・カンパニー』では100年続く企業の共通点として、先ほどのやりがい搾取の要素に似たものを提示しています。
つまり、ビジョナリー・カンパニーとやりがい搾取を振りかざすブラック企業とは紙一重で、あくまで働かせすぎかどうか、正当な報酬が支払われているかが問題になるといえるでしょう。

東京オリンピックのボランティアはやりがい搾取なのか?

最近では2020年の東京オリンピックのボランティア募集が「やりがい搾取ではないのか?」と話題になっています。
その理由として、以下のような厚い経験をもった人材を無償のボランティアで8万人も集めようとしているからです。

東京2020大会の大会ボランティアとして活動したいという熱意を持っている方
お互いを思いやる心を持ち、チームとして活動したい方
オリンピック・パラリンピック競技に関する基本的な知識がある方
スポーツボランティアをはじめとするボランティア経験がある方
英語、その他言語及び手話のスキルを活かしたい方

出典:https://tokyo2020.org/jp/special/volunteer/application/

拘束時間は1日8時間とフル稼働なので、かなりハードですね。

そうやすやすと搾取はできない

東京オリンピック、確かに「やりがい搾取」と言われても仕方がないのかもしれませんが、今回については「やりがい搾取」ではないと思われます。
なぜなら、搾取ができないからです。
そもそも人が集まらないでしょう。現にボランティアが集まらない問題がオリンピック運営側の喫緊の課題のようです。
ゲーミフィケーションがやりがい搾取に利用されるかどうか考えた際にも見てきたように、生活が安定しない状況にある場合、人間は自己実現のようなやりがいを見出さないからです。

ゲーミフィケーション ゲーミフィケーション(Gamification)はやりがい搾取に悪用される!?ゲーミフィケーションではできないことまとめ

「やりがい搾取」と一口に言っても、容易に搾取できるわけではありませんし、そこに賛同する人が多いのであれば、自分の目には奇妙に映っても、案外ビジョナリー・カンパニーなのかもしれませんね。
案外やりがい搾取でもなんでもなく、ただの仕事の押し付けな場合もあるため、不当な要求には森山みくりのように、きっぱりと断る勇気が大切でしょう。