ディズニーで用いられている教育手法 ―目標管理とコーチング―

2022年8月31日

注目されるディズニーの事例

岡村 健右『ゲームの力が会社を変える』(日本実業出版社、2012年)ではゲーミフィケーション(Gamification)の事例として東京ディズニーランド・東京ディズニーシーなどのディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドを挙げています。

『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』(以下、『ディズニーの教え方』と略記)という本が出版されるように、ディズニーリゾートで働くキャストと呼ばれるスタッフは9割がアルバイトなどの非正規雇用です。

非正規雇用は正規で雇うよりも人件費は少なくて済みますが、スキルも低く、欠勤も多いというのが常ではないでしょうか。
しかしディズニーリゾートではこの問題点をクリアし、上手くテーマパークを運営しています。
今回はディズニーリゾートの社内制度を見ていきましょう。

ディズニーリゾート成功の秘訣

ディズニーリゾートで実施されているキャスト養成法は「目標設定」「フィードバック」が見事に調和しています。

スモールステップによる目標管理

まずは目標設定から見ていきましょう。
ディズニーリゾートで働きたい人は単にディズニーのキャラクターが好きなだけでなく、ディズニーリゾートで働くキャストたちにあこがれてアルバイト募集にエントリーしたものと思われます。
そのため、新人キャストにとっての目標は自分たちが目の当たりにした先輩キャストということになります。

ディズニーリゾートでは後輩キャストの目標に対し、先輩キャストは性急な成果を後輩に求めたりはしません。
まずは小さな目標「スモールステップ」をこなしていき、後輩キャストの理想に近づけていきます[1]『ディズニーの教え方』194頁

たとえばキャストのトークが重要な劇場型アトラクションであれば、先輩スタッフは持ち前のトーク術で会場を湧かせることができます。
しかし新人でいきなり会場のゲストの心を掴むことはやさしいことではありません。
そのため、先輩キャストのようなトーク術を持つための第一歩として「噛まずにセリフを言えるようにする」「時間通りに進行させる」というような「スモールステップ」を設け、理想像までの道のりをサポートします。

ディズニーのフィードバック制度

ディズニーリゾートはフィードバックの仕組みも優れています。ディズニーリゾートではいつでも先輩キャストが後輩キャストのことを気にかけており、キャスト同士が優れたキャストを投票して表彰する制度があります。

しっかりと先輩キャストが見て、適切なフィードバックを行うことで、後輩キャストはモチベーションを維持しながら、目標への道を踏み外さず進むことができます。
また投票の表彰制度によって、どんな小さなことでも見てくれる同僚がおり、褒めてくれるということが日々の業務に活力を与えてくれます。

さらにディズニーではキャストの功績に対してピンやカードなどを渡し、形にします。また次のピンやカードを貰おうとする気持ちがさらなるスキル向上につながっています。

ディズニーの制度はゲーミフィケーション(Gamification)と言えるか?

以上、ディズニーリゾートで実践されているキャストの育成方法を見てきました。『ゲームの力が会社を変える』ではこのディズニーリゾートの手法をゲーミフィケーション(Gamification)の事例としていますが、果たしてそう言えるでしょうか。
確かにディズニーの教育の優れた所は先輩から後輩への指導体制ですが、目標管理やフィードバックを行う先輩スタッフの存在が不可欠です。
ゲーミフィケーションではこうした先輩社員がいなくとも、自動的に会社へのロイヤリティやスキルアップへのモチベーションを高められるかがミソとなっています。
そのため、ディズニーリゾートの制度はゲーミフィケーションの事例とは言い難いでしょう。
とはいえ、ディズニーリゾート運営で用いられている手法はコーチングとして注目すべき事例が集まっているので、ゲーミフィケーション(Gamification)の構築に大いに参考になるでしょう。

目標管理について

今回の記事では目標管理についての話がでてきました。
目標管理については以下の記事もご参照ください。

1『ディズニーの教え方』194頁