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デザインのプロジェクトを遅延させるパーキンソンの凡俗法則と対処法

パーキンソンの凡俗法則とは?

パーキンソンの凡俗法則の画像

パーキンソンの凡俗法則

パーキンソンの凡俗法則(Parkinson’s Law of Triviality)とは、イギリスの歴史学者・政治学者シリル・ノースコート・パーキンソン(Cyril Northcote Parkinson)が1957年に発表した「組織は些細な物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く」という主張のことです。
複雑で理解が難しく、重要な事柄を見過ごす一方で、簡単に理解・把握することができる些細なものごとに気を取られてしまう組織の性質を表しています。
パーキンソンが例として挙げた原子炉のプロジェクトにでてくる自転車小屋の話から「自転車置き場の議論」、「自転車置き場の色」という言い回しでも知られています。

官僚制を研究したパーキンソン

パーキンソンの写真
もともとパーキンソンは官僚制を研究する政治学者でありました。パーキンソンは官僚制を研究する中で「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する(第1法則)」、「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する(第2法則)」というパーキンソンの法則(Parkinson’s law)を発見しました。
第1法則の具体例として挙げられるのが、イギリス帝国が縮小していく中で職員は増えていったイギリス殖民地省の話であり、この職員増加の要因としてパーキンソンは①役人はライバルではなく部下が増えることを望むこと、②役人は相互に仕事を作りあうことを挙げています。
この供給された職員が互いに仕事を増やしていくということから転じて、第2法則の「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」という話につながっていきます。
パーキンソンの凡俗法則もこうしたパーキンソンの広範な官僚制研究の成果の一つでありますが、一般的にパーキンソンの法則とパーキンソンの凡俗法則は区別されて扱われます。

原子力発電所建設計画のたとえ話

パーキンソンの凡俗法則のたとえ話として、原子力発電所建設の審議委員会の様子がよく知られています。
原子力発電所建設の審議委員会が開かれたとしても、原子力発電という専門的な知識が必要であり、一般人が想像できないようなものごとについては大した議論がなされずに進んでいく一方で、その発電所に設置する自転車置き場については誰でも容易に理解できるため、重要性が低い割には屋根の素材にまで議論が及ぶというものです。
このように、会の中で存在意義を示すために自分のアイデアを盛り込ませようとする人の性質と、議題の難しさという障壁が相まって、取るに足らない議題にばかり議論が集中してしまうことをパーキンソンの凡俗法則は示しています。
この原子力発電所建設の話はあくまでたとえ話とされていますが、もしかするとパーキンソンが実際に体験したプロジェクトなのかもしれません。
このパーキンソンのたとえ話には「屋根の色」という話はでてこなかったのですが、このパーキンソンの凡俗法則を引用したポールヘニングカンプ(Poul-Henning Kamp)がオープンソースOS・FreeBSDの開発者のメーリングリストで「A bike shed (any colour will do) on greener grass…(青い芝生の自転車置き場(何色でもいいよ))」というタイトルを使ったことで「自転車置き場の色」として知られるようになりました。

議論に費やされる時間は金額に反比例する

パーキンソンはさらにたとえ話として原子力発電所建設計画の審議委員会で話される3つの議題を挙げて、議論に費やされる時間はその金額に反比例することを説明しています。
例えば、原子力発電建設計画の審議委員会で以下の3つの議題が話されるとします。

3つの議題
  1. 1,000万ポンドの原子炉建設契約への署名について
  2. 事務スタッフのための350ポンドの自転車小屋の建設について
  3. 合同福祉委員会に軽食を供給するために年間21ポンドを提供することについて
パーキンソンの法則が発表された1957年では、1ポンドは1008円の固定相場だったので、金額については1,000倍すればおよその日本円となるでしょう(物価を考慮すればこの数倍はするかもしれません)。
上記の議題に対して、パーキンソンは①の議論については2分半で終わるだろうとしています。金額が大きすぎて技術的にも難しい内容に対して、例え不安な点があったとしても、参加者の多くは何が不安要素なのかを説明することができないとしています。その結果、①の議題については2分半で終わるとパーキンソンは予想します。
次に②の自転車小屋については、参加者の多くが想像ができるので、上述の通り、その屋根に使う素材にまで議論が及びます。その結果、45分はこの議題に費やすだろうとパーキンソンは予想します。
最後に③の軽食については、今度こそ本当に誰でもわかる話です。例え自転車小屋の屋根に使う素材の議論に加われなくても、軽食についてくるコーヒーがわからないということはないため、「どこ産の豆を使うのか」とか「どこで買うべきか」というところまで議論が及び、その結果1時間15分は話してるだろうとパーキンソンは予想しました。
このように、金額が大きく、重要である議題に対しては大した議論がなされないにもかかわらず、金額が小さくなっていくにつれ、話す時間は増えていきます。

パーキンソンの凡俗法則の利用方法

なかなか決定しないデザイン


パーキンソンの凡俗法則は現在でも多種多様なプロジェクトでプロジェクトマネージャーを困らせていますが、もっとも困らせられるのがデザインの策定ではないでしょうか。
例えば大規模システムを開発するにしても、最も重要なシステム部分は専門的な知識を持っていなければ会話についていけないため、理解しやすい操作画面の小さなアイコンをどうするかにばかり話が及んで、デザインが進まないということがあります。
制作したデザインの意味・意図を正しくクライアントに伝えられるというのはデザイナーに必須の技術の一つですが、熟練したデザイナーであってもパーキンソンの凡俗法則に陥って会議をまとめられず、ずるずるとプロジェクトを遅延させてしまうことは少なくありません。
このような状況を打破するために、トム・グリーバー(Tom Greever)『デザインの伝え方』の第11章「難局を打破するための方法」では「アヒル」を用意することを勧めています。

アヒルとは何か?

アヒルの例の画像

アヒルの例。異質な存在にプロジェクトメンバーの目が集中する。

アヒルというのは、デザインをデザイナーの意図通りに進めるためのおとりのような存在です。不要な機能やデザインをあえて追加することで、他の重要な案件を静かにすすめるという手法で使われます。
これはプログラミングのQ&Aサイトとしてもっとも有名なStack Overflow(スタックオーバーフロー)の創設者であるジェフ・アトウッド(Jeff Atwood)のブログ・Coding Horrorで紹介されたことで有名になりました。
もともとはジェフ・アドウッド自身が経験した話ではなく、ゲーム会社・インタープレイ・エンターテインメント(Interplay Entertainment)で行われたチェスゲームの開発における一幕からきているとされています。
インタープレイ・エンターテインメントで開発していたチェフゲームのデザイナーは、会議のたびに何かしらプロジェクトのステークホルダー(つまり開発メンバーだけでなく、プロデューサーや出資者など含めて様々な方面)からデザインの変更を要求され、思い通りにデザインを進められずに困っていました。
そこでそのデザイナーはクイーンの駒を作る際、自分が思うデザインを細部にまでクイーンに反映させた後、クイーンのペットとしてド派手で動きの目立つ、しかしクイーンの邪魔にはならないアヒルを添えました。
このクイーンの駒のレビューの日、プロデューサーはデザイナーに対して「すごくいいね。ただし1点だけ。アヒルは削除してね。」と言ったそうです。
こうしてデザイナーはアヒルを犠牲にして、自分の思い通りのクイーンのデザインを通すことに成功しました。
Coding Horrorにはプロデューサーがクイーンのデザインを決定するまでの会議の内容などは記載されていませんが、必要のない存在のアヒルをめぐって白熱した議論が展開されたのは想像に難くないですね。

複数の選択肢を用意する

このようにアヒルというのは、あってもなくてもいいものを目立つようにつくり、そこに周りの目が奪われている間に、本質的で重要な内容を進めるのに使われます。デザインだけでなく、様々な場面で応用できる手法です。
このアヒルを使う手法の代わりに、『デザインの伝え方』の著者・トム・グリーバーは「慎重に選んだ複数の選択肢を提示する」という手法を採っているそうです。
つまり、プレゼンテーションでデザインを提示する順序や、最適でないフォントを使ったり、不必要なビジュアル要素をあえてつかうなどによって、本当に自分が通したいデザインがいかに良いのかを説明しようというものです。
こうした手法を採るのは、トム・グリーバーがアヒルを使ってクライアントをだますのではなく、「より良い解決策を目指して会話の方向転換を図るきっかけ」を作ることが大切だと考えているからです。

さいごに:すばらしいメンバーにアヒルはいらない

今回はパーキンソンの凡俗法則の内容を概観しながら、それがデザインの決定を遅らせる原因になっていることをご紹介していきました。
周りからの度重なる変更にあい、デザインがどうしてもうまく進まないときは、おとりとなるアヒルを追加するのが効果的なこともあります。
不要なアヒルに対して議論の重点が置かれると、参加者は自分の意見を十分にいえて満足感を得られますし、デザイナーは本当に通したいデザイン物を粛々と進められます。
とはいえ、どんなときでもアヒルをつくることが効果的であるとはいえません。プロジェクトメンバーに十分な知識があり、さらにプロジェクトの目標に対してぶれた視点をもっていなければ、あえてアヒルをつかって無用な議論を引き起こす必要はありません。
あくまでアヒルというのはプロジェクトメンバーが言いたい放題でデザインが全く進められないというような状況の最終手段であり、そうでなければデザイナーからの丁寧な説明やプロジェクトマネージャーの進行管理のもとでプロジェクトを進めていくほうがよいでしょう。

参考

書籍

  • Tom Greever (著)、坂田 一倫 (監修)、武舎 広幸 (翻訳)、武舎 るみ (翻訳)『デザインの伝え方』オライリージャパン、2016年

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