ブラック企業必見!司馬法から学ぶ休みと訓練の重要性

2022年9月16日

日本で「働き方改革」が叫ばれて久しくなりましたが、まだまだ十分に社員を休ませていない会社は多いのではないでしょうか。
今回は休息の重要性を『司馬法』から学んでいきましょう。

司馬法とは何か?

今回ご紹介する『司馬法』とは、『孫子』『呉子』と並び「武経七書」に数えられる兵法書の1つです。
中国の春秋時代、斉の名将であった司馬穰苴によって書かれたとされています。
「法」という名前がついているように、他の兵法書よりも軍隊内部のルールや仕組みに対して多くの言及がなされているのが『司馬法』の特徴です。

軍旅は舒を以って主と為す

 軍旅以舒為主 舒則民力足 ―『司馬法』天子之義篇

『司馬法』の言葉の中にこのようなものがあります。

「軍旅以舒為主 舒則民力足」
―『司馬法』天子之義篇より

書き下し文にすれば「軍旅は舒を以って主と為す 舒則ち民力足る」となります。

組織はおだやかであるほうがよい

ここからは「軍旅以舒為主 舒則民力足」の意味を考えていきましょう。
冒頭の「軍旅」というのは軍隊や戦争のことを指します。
「軍旅」に続く「舒」という文字は日常的に使う言葉ではありませんが、「ゆるやか」「おだやか」という意味をもっています。
自由気ままな日々を送ることを「悠悠自適」といいますが、のんびりした状態を表す「悠悠」と組み合わせ、「急がず慌てず、ゆったりとしている様子」を意味する「悠悠舒舒」という言葉もあります。
つまり、「軍旅は舒を以って主と為す 舒則ち民力足る」というのは、「軍隊はおだやかであったほうがよい おだやかであれば兵隊の力も満ち足りる」という訳になります。
軍隊は当然戦争で戦うものであるため、戦闘中のような苛烈な体制が求められるのかと思いきや、『司馬法』はそうではないとしています。

馬牛車兵佚飽するは力なり

馬牛車兵佚飽力也 ―『司馬法』定爵篇

休息を重視する『司馬法』の中にはこのような言葉もあります。

馬牛車兵佚飽力也
―『司馬法』定爵篇より

書き下し文にすると「馬牛車兵佚飽するは力なり」となります。

たっぷり休養をとったほうが戦力は充実する

「馬牛車兵」というのは馬や牛、荷車や兵隊といった戦争で動員するすべてのものを指していると思われます。
そのあとに続く「佚飽(いっぽう)」という言葉はあまり聞きなれません。
「佚飽」を「佚」と「飽」に分けて見ていくと、「佚」というのは「たっぷり休養をとって戦力が充実している状態」、「飽」というのは「十分に食事をとって力が満ちている状態」を意味しています。
つまり「馬牛車兵佚飽するは力なり」を現代語に訳せば、「兵隊や牛馬を十分に休めておくことが力だ」となります。
実際に戦をするときに力を出すには十分な休息が必要だと言っているのでしょう。

佚を以て労を待ち、飽を以て飢を待つ

この「佚飽」の重要性については、『孫子』にも以下のように言及がなされています。

以佚待労 以飽待飢
―『孫子』軍争篇より

これを書き下し文にすると「佚を以て労を待ち 飽を以て飢を待つ」となります。
つまり、「十分な休みをとって相手が疲れるのを待ち 十分な食事をとって相手が飢えるのを待つ」という意味になります。
『司馬法』では軍隊内の在り方として十分な休息をとることの必要性を論じていましたが、『孫子』でもまた敵を倒すという視点で兵士の十分な休息が必要だと説いていたのですね。

休むだけでは何も解決しない

十分な休みは日々の訓練による

以上のように、『司馬法』や『孫子』の中で言及された休息の重要性をご紹介してきました。
兵隊がくたくたに疲れていては戦争どころではありません。
それと同様に、社員がいつも疲れているような会社は健全な状態にあるとは言えないでしょう。
しかし、ただ休みをとればいいというわけではありません
安易に休む人が増えてしまえば、業務が滞り、お客さんやクライアントの迷惑につながってしまい、ひいては結局社員の負担を増やしてしまいます。

教えはこれ予めし、戦いはこれ節にす

『司馬法』の中では兵隊を休める必要性を説いた時には、同様に兵隊の訓練も必要であると述べています。
先ほどの「馬牛車兵佚飽力也」に続けて、『司馬法』は以下の言葉が記されています。

教惟予 戦惟節
―『司馬法』定爵篇より

書き下し文にすると「教えはこれ予めし 戦いはこれ節にす」になり、「教練・訓練というのはあらかじめ徹底しておき、戦いはルールや統制のとれた状態で行う」という意味になります。
このように『司馬法』では兵士の休息の大切さを説いていますが、それと同様に訓練や規律の重要性にも繰り返し言及しています。
十分な休息、十分な訓練、そして軍隊としての規律があって、ようやく戦に負けない組織ができあがると司馬穰苴は考えていたのではないでしょうか。

参考文献

  • 守屋 洋・守屋 淳『全訳「武経七書」1 孫子・呉子』プレジデント社、2014年
  • 守屋 洋・守屋 淳『全訳「武経七書」2 司馬法 尉繚子 李衛公問対』プレジデント社、2014年