適応型の手法の必要性と現場の力量を考える 『補給戦―何が勝敗を決定するのか』を読んで

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理論倒れが続いた補給計画

2020年11月の連休を使い、『補給戦―何が勝敗を決定するのか』を読み終えました1)マーチン・ファン クレフェルト(著)、佐藤 佐三郎(訳)『補給戦―何が勝敗を決定するのか』中公文庫BIBLIO、2006年。以下『補給戦』と略記。
本書は兵站術が戦略に与えた影響を調査することを目的として書かれました。
人間の歴史の中で兵站術というのが登場したのは遅く、18世紀までは、現地調達の名の略奪が軍隊の主な兵站の手段でした。
兵站を現地調達に頼るということは、今日でいう補給戦を意識せずに戦線を拡大することができ、それゆえ、アレクサンダー大王やチンギス・ハーンはユーラシア大陸の広範囲に軍隊を送ることができました。

では、現地調達に頼らない兵站術が現れたのはいつからだったのでしょうか?
鉄道や自動車の発達とともに補給戦が確立されるというのが一般的なイメージです。
もちろん鉄道輸送や自動車による物資の移動ができなかったわけではないのですが、さまざまなトラブルが発生し、意図した補給はできなかったというのが現実だったようです。
第1次世界大戦時では、現地で物資を徴発しながら補給を整えていました。
第2次世界大戦になると、物資が届くまで軍隊が動けなくなりました。これは現地調達を人道的にしなくなったという訳ではなく、現地では徴発できない戦争必需品が多くなったからでした2)『補給戦』、387頁。
ある意味、ようやく第2次世界大戦に入ってようやく、人間は補給戦によって足を止めなければならないという状況に陥り始めたのだとも考えられます。

戦争の摩擦

このように兵站術というのは、長年現地調達という方法にしばられていました。
鉄道の利用や自動車の利用なども考えられてきたものの、それが上手く機能しなかったのは、クラウゼヴィッツの言う「摩擦」、つまり戦争中に発生する不測のアクシデントが原因でした。
このような兵站の歴史をまとめ、著者であるマーチン・ファン・クレフェルトは以下のように述べています。

戦争とか人間行動の他の側面を理解するには知性という手段しかないと信じるのは、バベルの塔を作り罰を被った人々と同じように、自信過剰を証明するものだ。戦争においては、精神と物資の関係は三対一であるというナポレオンの格言の真理を承認すること。結局これが、機動作戦に及ぼす兵站を研究する際、われわれが学びうるところのすべてであろう。

『補給戦』、393頁。

つまり、計画通りに戦争が進むわけではなく、不測の事態に直面しても忍耐強くいられる精神力が大切だということでしょう。

プロジェクトの摩擦

『補給戦』を読んだ感想は、プロジェクトマネジメントにも通じるというところがあることです。
不測の事態にどのように対処するか、そして不測の事態にあっても忍耐強くいられるかが、勝利の鍵であるという点は、プロジェクトマネジメントでも同じであると言えるでしょう。
プロジェクトの初期にすべてを予測しようとするウォーターフォール型のプロジェクト進行から、現場の状況に柔軟に対応しようとするアジャイル型に代表される適応型のプロジェクト進行が求められている状況に似ています。

しかし、より重要に感じたのが、兵站であってもプロジェクトであっても、現場の指揮官の対応力が何より必要なのではないかということです。
マーチンが引用したナポレオンの言葉にある「精神と物資の関係は三対一」という中の精神には、不測の事態でも我慢できる現場の忍耐力とともに、その中でも冷静に現場対応ができる指揮官の精神力も意味しているのではないでしょうか。
「アジャイル型」という手法が世に出てから、なかなか定着しないのは、手法の紹介ばかりが先行し、指揮官の対応力について、十分な議論がなされなかったのではないかと考えます。

この現場の対応力については、アメリカ海兵隊式の、現場対応力があるのではないかと思いますが、その紹介はまた別の機会に。

References   [ + ]

1. マーチン・ファン クレフェルト(著)、佐藤 佐三郎(訳)『補給戦―何が勝敗を決定するのか』中公文庫BIBLIO、2006年。以下『補給戦』と略記。
2. 『補給戦』、387頁。